夜は深みを増して、体温が溶け合っていく。

あぁ、月が、




Only can I feel your Fever




将臣の下で、瞼越しに月が雲に隠れたのが判った。

澄んだ空気に一直線に伸びた月光が世界を青白いグラスへと変え、そして雲の向こうに隠れてしまえば、 あたりにはうっそうとした闇が底なしに広がり、望美は将臣の背中に腕を回した。


「ん・・・・・・」


鼻から抜ける、くぐもっているくせに掠れた声は、首筋に顔を埋めた将臣の耳に届きそして唇を離すと紅い跡がついていた。

褥のそばに置いた燭が夜風に揺られて不鮮明な影を柔らかい曲線を描く望美に落とし、将臣の程よくついた筋肉が動くのをつぶさに拾っている。

昼間の、体の中心がわくわくして動かずにはいられない日の光が落ち着きを見せるこの時間帯。

人々が安息の中に包まっているとき。

将臣は、望美を熱くして、熱くなった望美は将臣を駆り立てる。


「望美・・・・・・」

「んあ・・・・・・っ」


布越しに柔らかな乳房を捕らえ、耳朶に直接舌を這わせると脳天に波紋が立つ。

しばらく望美の白い耳たぶを堪能した将臣はついと口を離し、望美の瞳を覗き込んだ。


「ん・・・・・・何?」

「お前・・・・・・すっげぇ綺麗だ」

「な、に、突然!」


新緑を凝縮してはめ込んだような翠玉の瞳が潤んで将臣を見つめ返し、らしくもない言葉にすぐさま反応する。

白桃のように色づいた頬、求めるように薄く開いた唇、しなやかにのけぞる細い首には己がつけた所有印。

乱れた着物から緩やかなカーブを描いて肩口まで延びる鎖骨を触れるか否かのところで指でなぞり、一気に着物を剥ぎ取った。


「わ、やっ・・・・・・まさおみく」

「なんだよ、一緒に風呂入っただろ?」

「それとこれとは・・・・・・!」


反射的に胸を隠した望美に、一度そうとはわからないくらいに苦笑して、口づけた。

触れるだけの、ほんの一瞬の。

頬に添えた手を、そのまま耳朶に滑らせると、全く無傷の耳たぶを確認するように軽くつまんだ。

目の前の瞳が、疑問で揺れる。


「あぁ、お前・・・・・・開けてないんだっけか」

「え、う、うん。どうして・・・・・・」

「望美。この耳、オレにくれないか?」

「え・・・・・・」


すっきりと締まった瞳が真剣さをまして深い光を放ち、望美の心まで入り込んで仕方ない。

こんな状況で言われたら断れない。


「耳だけでいいの?」


悔しいから、少し答えに含みを持たせてやった。

すると、オリエンタルブルーの双眸がほんの僅か見開かれ、そして緩む。


「じゃあ、全部オレにくれる?」

「・・・・・・将臣君になら、全部あげる」


精悍な顔つき、少年の幼さが抜けた頬、眉毛の上の昔の傷。

肌蹴た腕についた刀傷、広い胸板、固い意志を宿して人を惹き付けるその瞳。

この人がほしいと思うものを、余すことなく全部あげたい。

きっと誰よりも傷ついて苦しんだこの人に、苦しみも悲しみも分かち合えないとしても、全部あげる。


「・・・・・・ありがとう」


たった一言、そう返すだけで精一杯だった。

切なく眉を寄せた将臣は、思いのほか自分の声が掠れていたことに驚き、そして長い腕で望美を捕らえて離さなかった。

一生の女。

この女がいなければ、この人生に意味はないと思うほどの、女。

近くにあった望美の荷物を引き寄せ、中から裁縫に使っていた針を取り出した。


「本当は、」


伏せた瞳を縁取る睫が揺れている。


「もっとちゃんとしたやつ、くれたかったんだけどな」

「将臣くんがくれるものなら、なんでも」

「少し、痛むぞ」


うんと小さく望美が頷き、これからもたされるであろう痛みに身構えた。

閉じられた瞼にキスを贈り、そうして、一気に針を生地のような肉に突き刺し――


「オレので、ごめんな」


将臣は右の耳に嵌っていた飾りを外すと、痛みが引ききらない傷口にはめ込んだ。

紅い玉は小さな耳朶には少々大きかったが、首筋に付けられた跡と同じく、望美が将臣のものであるという証になり、そしてその逆も示す。


「・・・・・・ううん、嬉しい」


望美は笑った。


――あぁ、今、泣いていいだろうか


血と、肉を切る感触は手のひらが忘れていない。

守るために剣を取り、幾度血を浴び、骨を断ち、命を奪ったことだろうか。

どこか変わってしまった自分を、望美は何のてらいもなく受け入れて抱きしめてくれる。


――泣いて、いいだろうか


愛しているだけでは到底足りない気持ちを、伝われと願って将臣は望美を抱きしめた。


「幸せに、する」


先に動いたのはどちらからだっただろうか。

考える間もなく望美の唇を奪うと僅かな隙間から舌を差し入れ、ためらいながらも絡んできた望美のそれを強く吸った。

次いで乳房に直に触れると、確かに早まる鼓動を感じた。

今は、互いの体温を感じるだけでいい。


「んんっ」

「・・・・・・望美」


顔をずらし、たわわな乳房の頂点に口付けると、甘く噛んで舌を這わせる。

左手は腰のくびれを何度も往復し吸い付く白磁器の肌を堪能するうち、中心に向かってゆく。

それを察知した望美は、本能的に体を捩って逃げようとするが、腰を腰で押さえつけられて叶わなかった。


「望美・・・・・・?」

「や、だ、だって・・・・・・」

「言ったろ?俺も緊張してる」


ほら、と手を取り自分の胸に押し付ける。

そうして感じた鼓動は、今にも飛び出すかと思うほど強く内側から叩き、はっと将臣を見れば照れたように瞳を緩ませる。

今夜幾度目かもわからなくなったキスをかわし、虚を突いて望美の膝を割った。

すばやく体を割りいれると、望美が抵抗を見せる前に将臣は其処へ指を這わせた。

しとどに溢れる熱い蜜を掬い取り、割れ目に沿って緩やかに動かせば後から後からと壷は蜜を吐いた。


「あっ・・・・・・やぁん」

「望美・・・・・・力抜いてろ」


言うが早いか、長い中指を中へ差し込み、親指で届くところにある花芯をくりんとこねまわせば――


「ああぁっ・・・・・・!」


望美の嬌声が夜の帳を裂いた。

それを心地よく耳に聞きながら、将臣は乳房と中心への愛撫を止めなかった。

初めて迎え入れる望美が、なるべくつらい思いをしないように、愛しいと思う気持ちが体の隅から中まで伝わるように。


――愛おしいと、なぜ


泣けてくるのだろうかと望美は将臣に翻弄され、甘い吐息を絶えることなく吐きながら頬を流れる涙を感じた。

急に中の将臣の本数が増え、痛みを感じるよりもきつさが先立って息を詰まらせる。


「んっ・・・・・・ん」

「きついか?」

「んっ・・・・・・へ、き」


腰を少しずらすと、布越しでない、将臣自身を太ももに感じて望美はこれ以上ないくらい真っ赤になって彼を見た。


「ばぁか、仕方ないんだよ・・・・・・お前を見てると」


こうなるんだと掠れた声が直接脳天に響いて、望美の理性を揺るがしてゆく。

将臣以外わからない、将臣以外ほしくない。

ねだるように口を開けると、望みどおりキスをくれる。


「・・・・・・いいか?」


何を、とは聞かずにただうんと言った。

今まで床に敷いた着物を掴んでいた望美の手を包み込むようにして絡め取ると、口付けながら一気に――望美の奥深くへと将臣は入った。


「んん・・・・・・!」

「望美・・・・・・ごめ」

「い、いいの・・・・・・平気っ・・・・・・」


官能に歪めていた眉はきつく寄せられ苦痛による生理的な涙が流れる。

将臣は瞼に唇を落としたのを皮切りに、しきりに顔中にキスをする。

望美の意識が下腹部から逸れ、少しでも安心するように、そしてこれからの高まりを予感させるように、何度も何度も。


「まさおみくん・・・・・・」

「なんだ?」

「うごいても、いいよ?」

「え、」


――ひとつになってるって、感じたいから・・・・・・


その一言は、将臣の細い張り詰めた理性の糸を切る鋏の役割を果たし、そして操縦手を失ったカイトのように彼は、一度舞い上がりそして堕ちるしかなかった。


「・・・・・・っ!限界だ」


急激な腰使いに望美の息がついていかないが、それでもすがる背中の体温が確かで、伝う汗の一つ一つがとても美しかったから、ただ、身を任せた。

意識を手放す瞬間、聞こえたのは将臣の切なる囁きと、見えたのは白い月だった。


雲間から顔を出した月が二人を照らす。




*FIN*






初裏創作。まさおの肉体美を書き切れなかったのはじゃんの力不足ゆえ
例えると中トロじゃなくてサーモンくらいの脂が乗ってるできだと……いいな!(ねっ?)