気配だけで溶かされるなんて

なんなの、あたしをどうしたいの


Day and Night


見慣れた部屋に一歩踏み入った途端、長い腕の中に閉じ込められた。

身じろぎすら許してくれない。

将臣は後ろ手にドアを閉じたその瞬間小さな背中を抱きしめて、長い吐息をつく。

その温度で分かってしまう。

いや、もっと前、学校から帰ってくる道のりで触れ合う肩や手の甲からずっと伝わってきていた。


「・・・・・・望美」


ずるい、と思う。

一体どこにこんな甘美で切ない声を隠しているのか。

将臣の囁きが耳朶を掠めて、体の奥、自分でも知らない場所に火をつけられて背中から熱が這い 上がってくる。


「ま・・・・・・将臣く」


戸惑いを隠せない――一体何に戸惑っているのか渾然としてはっきりしないのだが――望美に構わ ず、将臣の腕は明確な意思を以って行為を開始した。


「・・・・・・ん」


深く深く口付けたあと、長く真っ直ぐな藤色の髪を分けて真っ白い首筋に顔を埋める。

見ているわけでもないのに、制服のブレザーのボタンは丁寧に外されていって、まさぐる大きな手 は的確に望美の双丘を捕らえた。


「望美・・・・・・」

「やっ・・・・・・!」


自分が与える感覚に身を捩る彼女に苦笑一つ零して、こちらを向かせもう一度深く口付ける。

さっき帰りがけに飲んでいたりんごジュースの味と香りがするキスだった。

やわやわと上唇を食み、空いた隙間から舌を差し入れる。

どれだけ唇を合わせても、望美のそれはおびえたように引っ込んでしまって、まるでこれが初めて 重ねるような仕草を見せるものだから、毎回彼を愉しませて追い立てるのだ。

これが演技だとしたら末恐ろしいを通り越す。


「・・・・・・はっ」

「のぞみ」


呼吸する間すら与えてもらえず、酸素を求めて本能的に顔を離す望美を、将臣はまだ許さない。

後頭部に手を回すと口先から全部喰らってやるとでもいうようなキスをする。

さらりさらりと髪が将臣の指を流れていって、感触を楽しみながらもやはり、器用に制服を脱がせ ていく。

ブレザーが落ち、ブラウスが肌蹴け、スカートが足元にある。


「やっ・・・・・・せめて、ベッド行きたい・・・・・・っ!」

「仰せのままに、ってか?」


余裕綽々、飄々と、こんなにしている張本人が言うのはすごく腹が立つ。

腰から力が抜けそうなのに、将臣の手がうまく支えてくれているお陰でようやっと立っている状態 だ。

ぐいと腕を引かれて背中に感じるスプリングの軋む音。

クリーム色の、どこにでもあるようなベッドシーツに望美の髪が広がって二度とは見られない模様 を作り出す。

押し倒しがてらに将臣も制服を邪魔だと言わんばかりに脱ぎ捨てて、ワイシャツも脱いでしまう。

目が眩む。

いつの間についたのか知れない、バランスの取れた筋肉。

鎖骨から肩に掛けてのラインはもう大人の男のもので、太い腕は確実に己と異なる性を示している。

いいや、もっと直接的に訴えている箇所がある。

制服のズボン越し、太ももに押し付けられてはっきり形がわかるほど。


「・・・・・・望美」


こんなときほど、自分の名前を愛おしく感じる瞬間はない。

のとぞとみのありふれた組み合わせが、今、将臣が口にするだけで何とも言えない幸せな気分にし てくれる。

他の誰が呼んだって、こんな気持ちになりはしない。


「ふぁ・・・・・・んん」


綺麗に下着を取り払って、あらわになった胸元に顔を埋めてさらなる刺激を与えられる。

将臣の脇にやった手が彼の体に食い込んで、どうにか止めさせようとしているのか、止めて欲しい のか。

熱が、どんどん溜まる。

この熱が溜まって、内臓がどろどろに溶けたらどうしたらいいんだろう?

きつく目を瞑って快感をどうにかやり過ごそうとしているうちに彼の手は下へと伸びていく。


「感じやすいな、お前」

「そんなこと・・・・・・なっ・・・・・・んぁ!」


否定を全くなさない望美の中心はもう蜜で濡れぼそっていた。

割れ目に指を何度も這わせるだけで入り口がきゅうきゅうと締まるのが分かる。

ぷつりと何の前触れもなく差し込まれる指にも抵抗を示さず、むしろ悦ぶように蜜を溢れさせた。

中を十分にかき回し、望美の弱点を攻め立てるたび、彼女は負けまいとして声を抑えるが、蜜は止 まらない。


「んん・・・・・・」

「これでも違うっていうか?」

「やっ・・・・・・うぁ」


うっすら目を開ければ、待ちかねたように将臣の唇が降ってくる。

受け止めて、再び離れた彼の顔はもう、持て余した劣情で切なく潤んだ瞳が雄の部分を暴きたてて いた。

これを目の当たりにしてまともでいろと言う方が無理。


「いい?」

「ん」


短い問いは答えも短い。

簡単に貫かれて揺さぶられて、乱される。


「ん・・・・・・あっあっ・・・・・・」

「望美・・・・・・唇、噛むな」


将臣は頬に触れるだけのキスを落としながら、強くかみ締めた望美の口元に手をやる。

その間も律動は止まらないけれど。

そんなこといわれても、と新緑の瞳が訴える。


「噛むなら、こっち」


く、と親指を唇にひっかけて割りいれる。

自分の指じゃない、他人の指をどうして噛むことができようか。

力加減が利かない。

将臣は片足を持ち上げた格好のまま、さらに激しく腰を使う。


「はぁ・・・・・・あっあぁん」

「お前、気持ち良過ぎっ・・・・・・」


体を繋げたまま、望美の細い腰を抱き上げ自分の太ももに座らせる形にする。

荒々しい口付けの間に漏れる吐息が交じり合うくらいの距離で、将臣はからりと笑う。


「お前も気持ちいい・・・・・・?」

「言わせないでよ、そんなこと」

「じゃあ、言わせてやる」


もう、やだとイヤイヤをして首を振るたびに藤色が妖しく更に煽るように将臣の体を撫で付けた。

将臣の肌の感触や、熱、形を知れば知るほど自分の体は勝手に求めて昇りつめていく。

手が届かないところまで。


「・・・・・・はっあ!」

「望美・・・・・・っ」


先に舞い上がったのはどちらだろう。

先に崩れ落ちたのはどちらだろう。

気だるい終わりと暖かな体が寄り合うのは本能のなす業か。




「も〜将臣くんってば急なんだよ!」

「わりぃって言ってるだろ?」

「悪いと思ってないでしょ!」

「仕方ねぇじゃん。朝起きたときからずっとお前とやりたかったんだから」

「・・・・・・!」





*FIN*






急にやりたくなってそれを実行する男・有川将臣
途中から手抜き加減がありありとわかる一作。ってゆーかすいませ……!