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嘘や身勝手な理屈で互いを傷つけてても



A Waltz with You


「――俺が頭の中将なら、さしずめ、お前は光の君、か・・・・・・」


速玉大社で望美が代りを務めた白拍子の言葉は、しっかりと耳に届いていたらしい。

知盛はさも愉快そうに菖蒲色の瞳を細めた。

口元を皮肉そうに歪めているのは、彼なりの笑顔であるらしかった。


「光の君・・・・・・って、それじゃ男じゃない!」

「あぁ、そういえばそうだな・・・・・・だが」


どちらも舞の名手として名高い、とらしくもなく教えてくれた。

ふうん、と幾分か面白くない顔の望美に、そばにいた将臣が付け加える。


「あれで、知盛はほめてんだよ」

「わかりにくい・・・・・・」


はぁ、と盛大なため息をついて一人空を仰ぎ見る。

なんだか変な成り行きで知盛とひとさし舞うことになったのはつい先ほどのこと。

サシコミに苦しんでいた白拍子の代わりに望美が舞い、その場にいたご老人に今一度の舞を乞われた。

それは柳花苑といわれる、今は絶えてしまった舞。

知盛は一度しか手本を見せてはくれず、舞台に上がれば予想通りに躓いてしまった。

戸惑った望美に思いもよらない助け舟を出したのは、他でもない知盛。


――知らなかった


見上げた空は浅い青で、日差しの強さに眼の上に手をかざして影を作った。

瀞八丁にいる後白河法皇の女房に化けた怨霊を倒した後、目的を無事に―知盛のかなりの無茶はあったが―果たした三人を、法皇がひきとめる。


「もう、よいか?」


いわく、舞っていけと。

楽がありませぬと慇懃に断る知盛を尻目に、法皇の従者が何人か楽器を見せて整列した。

これにはさすがの知盛も眉を顰めたが、後の祭りで、要望に従うほかない状況である。

げんなりとしてしまった彼を含み笑いで見ていた望美を、法皇が見逃すはずもなく、かかと笑いながら

こう付け足した。


「神泉苑での舞いを今一度見てみたきものよ・・・・・・どうじゃ、舞ってみせてはくれぬか?」

「えぇっ!法皇様、そんないきなり・・・・・・」

「何、あのときほど衆目はなかろうて」

「で、でも・・・・・・」


慌てふためく望美を助けようにも、こういった事は至極苦手な将臣は役に立たない。

そして、面白がっていた罰だと謂わんばかりの知盛の言葉が退路を断った。


「えぇ、この者の舞は、ひどく蠱惑的でございますから・・・・・・」

「と、知盛っ!」

「先ほどと同じだと思えば、問題なかろう・・・・・・?」


小さな声で言われた楽天的な言葉に、春の神泉苑での出来事が頭をよぎる。

ここに、連れて行かれるかも知れない自分を、かばってくれる人はいるのだろうか。


「新中納言もそう申しておることだ、舞ってみせよ」


望美を道連れることに成功した知盛は袖で口元を隠しているが、笑っていることは十分に伝わってくる。

後ろを振り返れば、諦めろとでもいうような将臣の視線とぶつかる。

仕方なく―これもまた奇妙な成り行きなのだが―またしても舞うことになってしまった。


「・・・・・・で、こう、左手を」

「う、うん・・・・・・」

「まぁ、俺についてくればいいさ・・・・・・。
 これは、惟盛殿の十八番だが・・・・・・致し方あるまい」


一通りの振り付けを先ほど以上に簡素に教えてくれたが、望美にとっては心許無いことこの上ない。

将臣は将臣で声がかかり、後白河法皇のそばへと行ってしまい、視線を定める先を失ってしまった。


「お前は・・・・・・俺だけを見ていれば・・・・・・いい」


従者に楽の指示を出し終えた知盛が戻ってくるなり、耳元で囁かれる。

艶を含んだその声色に背筋を這い上がる不思議な感覚を覚えながら、望美は逆に問うた。


「で、なんていう舞楽なの?」



――海破



旅装のため、襲衣裳は当然のごとく全部省かれている。

正式との共通点といえば、知盛が右肩を脱ぎ直し、二人とも太刀をはいていることくらいか。

望美は紅に桜を散らした舞扇を左手に、知盛は紫紺に金色の模様をあしらった舞扇を右手にそれぞれ持ち、楽を待つ。


「では、始めるがよい」


後白河の低く太い声が響く中、龍笛の高い音が奏でられる。

やおら動き始めた知盛の動きをなぞるように、望美も腕を上げ、足を進めてゆく。

始めの音に笙の音が重なり、打ち物の拍子が舞い込んでくると、彼の動きがしばし複雑になる。

あ、と思う暇もなく次の動作へと引きずられ、振り回され、次第に望美自身が動き出してゆく。

つかず離れず、動きを重ねる二人はまるで。


――知らなかった。
  あぁ、知盛が、近い。


そう思ったのはほんの刹那のこと。

かち合った視線に絡めとられて何も考えられない。

快くすべてを委ねてしまうのは意識してのことではなく、それを知盛自身も善く思うようだ。

戦場で見るものとは違う、熱を帯びた恍惚とした表情が望美を放さない。

波返しの独特の楽の中で、二人がひとつになろうと合わさって行く様を、後白河と将臣は言葉をなくして

ただ見つめるだけ。

降り注ぐ日差しは、今はただ二人のための篝火に過ぎない。

吐息を互いに合わせたかと思えば呼応するように腕を上げ、視線を絡めては離れてしまう。

裾を振り合わせてゆっくりと近づいて戯れに扇を交わし、ふいとはぐらかす。

静かな楽が高まりを迎えるにつれ、間に漂う空気は濃密さを増すばかり。


「――っ」

「――」


呼吸を重ね、視線を重ね、動きを、心を重ねた時間は止め手の始まりで終わりを迎える。

十分な余韻を残して龍笛の音が止むと、ようやく観衆が息を吐く。


「見事なものよのぅ、小松内府?」

「は、はぁ・・・・・・」


呆然とする将臣と満面の笑みの後白河に、優雅な一礼をした二人が衣裳を整えてから御前に出る。

決して気温のせいでない、頬を紅潮させた望美の双眸は潤み、翠玉の二つの宝石のようだった。


「よき舞であったぞ、新中納言。
 三位中将のものも風情があって善きものではあったが、これはこれで、艶があるものよ」

「は・・・・・・院のお言葉を身に受けるにはあまりに恐縮でございます」


流麗な瞳を少し伏せ、薄い唇からは雲上の人らしい言葉がこぼれる。

隣に立たせた望美は視線の定まらず、酔った面持ちのままである。

そんな様子に苦笑を浮かべた後白河は何かを確認するように数回うなずいた。


「そなたも、見事であった・・・・・・やはり、市井に置くには惜しい娘よ」

「・・・・・・えっ、あ、はい」

「そなた、ワシと来る気はないか?」


じっと眼を細めていう後白河はまさしく「大天狗」の顔をしていた。

それにいち早く反応したのは将臣ではなく、また望美自身ではなく、知盛。

かばうように自らの背に半分姿を隠し、余裕の笑顔で答えた。


「この者を欲しておいででございますか」

「新中納言?」

「院のご希望に応えられないのは身を焼く思いでございますが・・・・・・お赦しくださりませ」

「ほう、そなたもかの者の虜のようじゃな・・・・・・さすが、龍に願いを届ける娘よ。
内裏のどの佳人が寄っても靡きもせぬこの新中納言を骨抜きに、とは」


色を含んだ内容に、望美はただはぁと知盛の背中越しに頷くだけ。

会話のきわどさに察しがいく将臣は、苦い微笑を顔に広げるだけだ。


「・・・・・・まぁ、また何かの折に舞を披露して欲しいものよ」


名残惜しそうに、後白河は三人を送り出す。

将臣の早足に付き合って望美が歩き出し、三歩ほど遅れたところから知盛がだるそうについてくる。

いつしか太陽の位置は西にとっぷりと傾き、東の空から藍色の闇が背中を押していた。




「次に会うのは戦場、か・・・・・・」


逗留している宿からほど近いところで望美は一人、ぽつんと立ち止まった。

輝く一番星に遣り切れない視線を投げても応えるはずがない。

浮かんだ涙はきっと気のせいだろう。

宿に着くまでに、皆の知っている「春日望美」にきっと戻れる。

小さな唇をかみ締めて、次々と現れる星を数えてみる。

知盛は言った。


――まるでお前を抱いたよう、だった・・・・・・ぜ


別れ際、盗むように掠めた唇を思い出して、頬を伝うしずくを拭った。














☆☆☆☆☆☆あとがき
この作品は 「After School」の管理人NORIKO様が主催なさっている「キス企画」に提出した作品です。
提出したものに少しばかり修正を加えています。
ごっしーがまさおを何て呼んでるかわかりません!!!!すいませ、プレステつける気力が(汗
なので、適当に「小松内府」に落ち着きました。
「せいがいは」と読みます。
ちもが舞うならこれだなぁと思ったはいいが、資料が!
はい、適当さ99%なので信じないでくださいね。下のほうに若干の補足。お暇があればどおぞ☆

このSSにボタン様より素敵なイラストをいただきました〜^^
こちらよりどうぞ




<補足> 三位中将=惟盛 / 笙=細い竹をいくつも束ねた笛
止め手=舞楽の終わりの曲 / 打ち物=打楽器(ここでは鉦鼓・鞨鼓・大太鼓)
龍笛=敦盛が持ってるような篠笛 / 波返し=この楽に独特の拍子の取り方
この舞は源氏物語「紅葉」で光と頭の中将が帝の前で舞ったもの。
ちなみに惟盛は後白河の前で舞ったことがあり、彼は平家で一番の舞人で美男子だったらしい
正式なものは簡単に言うと、まず4人の舞人が舞い、そのうち二人が退場した後、青海波の舞人二人が登場し、その二人が
舞い始めたら残った二人が入れ替わりで退場する。
この前座を務める4人を「輪臺(りんだい)」といい、青海波の「序」として舞われ、青海波はこの舞の「破」として舞われる。
この舞の装束は格式が高く、それは帝にも匹敵するもので、現在でも3点ほどしか現存していない。
実際には楽人が40人、詠人、舞人が必要であり、詠唱する場面があるが、唱和法は知り得ない。
舞楽は「序」「破」「急」の3部に別れ、ひとつの組曲のような構成になっている。
わかるかー!!!(苦笑