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目覚めても君がいる

それが幸せ


Wake up with your Fever



ここは南の遠い島。

還内府も源氏の神子も関係が無いどころか、平家や身分という枠まで取っ払ってしまうほど陽気でゴキゲンな島だった。

毎日毎日船に揺られて、将臣の頭にあるなんとも心許無い地図を頼りにたどり着いた。


「まぁ何とかなるさ」


と鼻歌交じりに船頭に立ち、すっかり平家の面々に慣れた望美を横目に見ながらの船旅だった。

それも、三日前で終わった。

辿り着いた地を自らの足で踏み、甘い蜜の香り混じる空気を肺一杯に吸い込み、太陽を掌に感じた将臣はたった一言


「いいじゃねぇか、ここにしようぜ」


とその太陽に負けないくらいの笑顔で言い放ったという。

そして彼の言葉に同じ笑顔で真っ先に頷いたのは幼い安徳帝。

転びますよ、という時子の諌言をそよ風のようにかわして毎日走り回り、疲れて眠ってしまったのがほんの数刻前のこと。

夕日がもうすぐ海の中に落ちようとしている。

眠る安徳帝のそばで子守をしていた望美に、時子は微笑を深くして言った。


「望美殿、ここはもう良いですから、あちらへお行きなさいな」

「あちらって・・・・・・?」


きょとんとこちらを見つめてくる顔はまだ幼さが残っている。

本当に、こんな可憐な子が戦場で同門の者と互角に戦ったのかと疑問に思ってしまう。

その反面、戦に駆り出した原因は我らにもあるのだと罪悪感が胸をよぎる。

微笑みに幾許かの苦笑を交えて、時子は続ける。


「将臣殿のところです」

「将臣君の・・・・・・・」


この発言を聞いても彼女はどうしてですかと無垢に聞いているのだからさしもの尼御前も困ってしまう。

なんと言ったらいいものか。

思案をめぐらせる先には、安徳帝の寝顔に優しく笑いかける姿。

神子の大役から解かれた彼女の、本来の姿なのだろう。

清廉の一言では語りつくせない空気を身に纏い、大輪の花がほころぶように笑ってみせる。

優しさを、素直さを、わけ隔てなく発揮するところにあの将臣も惹かれたのだろう。


「今宵から、将臣殿と休みなさい」

「え、と・・・・・・」

「このような状況で、きちんと祝言を挙げられないのが心苦しいのですが・・・・・・。
 ひと段落ついたことですし、あちらにお移りなさってはどうでしょう」


言葉を受け止める間に、望美はみるみるうちに真っ赤になっていく。

本当に、この子が策略と陰謀渦巻く戦に巻き込まれていたのかと驚くが、時子は白い手を取り、戸惑う彼女を立たせた。

ちょうどそのとき。


「おーい、望美、ちょっといいかー?」


戸の外で将臣が呼ぶ声。

それを聞いてほら、と時子が背中を押し、ついでに望美の荷を手に握らせる。

未だ戸惑う望美があたふたしているうちにひょいと顔をのぞかせた将臣。

その顔はもうすっかり日に焼け、精悍さを増していた。


「まっ将臣君・・・・・・!」

「将臣殿、ちょうどいいところに」


なぜか顔を真っ赤にしている望美と、まるで困った母親のように笑っている尼御前に、将臣はただ首を傾げるのだった。




腹筋がこれ以上ないくらい活躍した爆笑を抑え切れずに、将臣はその余韻を体を二つ折りにして耐えている。


「あ〜、腹痛てぇ」

「わ、わ笑い事じゃないんだからね!」


ぼすん、と広い背中を叩いてみても鍛えられた背筋はびくともしない。

旅の間、二人はずっと別々の空間で体を休めてきた。

将臣は様々なところで雑魚寝していたし、望美は時子や女房と繕い物をしながら眠る旅だった。

二人の仲が源平ともに公認になったとはいえこうして同じ部屋にいること自体が初めてだったりする。

そして、部屋が同じになった意味がわからないほど、二人は子供ではなかった。


「尼御前もやってくれるじゃねぇか」

「もう!」


顔を真っ赤にしてさらに攻撃してくるのをひらりとかわして、逆に腕の中に捉えられたのはその刹那。

はっと、望美の動きが止まった。

規則的な鼓動を直接耳に聞いて、振り上げた腕をゆっくりと下ろした。


「やっとだ」

「え?」

「やっと・・・・・・お前を」


その続きは互いの唇の中に吸い込まれていった。

腕の中にすんなりと納まる、柔らかな体と、穏やかな体温。

クセの無いまっすぐな藤色の髪に、豊かな感情をすぐさま映し出す深緑の双眸。

夢で何度も何度も見てきた姿。

誰に邪魔されること無く、こうして抱きしめて守っていける。

切ない囁きに、望美はくらくらしてきた頭を起こして、将臣の顔を見上げた。


「・・・・・・なんだよ?」

「なんでもない」


頬に大人の空気が漂っている。

紺色の瞳の奥に、見たことの無い熱を見つけてしまってどうしたらいいのかわからなくなってしまった。

再び唇が降ってきて、応えるのに精一杯になってしまう。

幼馴染だった。

いつも泣かされたけど、同じくらい助けてきてくれた。

命を賭けて刀を交わしたのはそう遠い過去のことではない。

幼馴染から伴侶へと関係が変わるのは、うれしい反面、少し怖い。

唇を重ねることにようやくなれたばっかりなのに、この先ということはどうなるのだろう?

望美の胸中を読んだかの様に、将臣はついと体を離した。

ばぁか、と笑って額を小突く。

そうして、形ばかり整えた寝床―要らない衣を重ねただけの床にごろりと長い体を横たえた。

たったそれだけのことに、望美の顔がまた赤くなる。

その様子に将臣は軽く苦笑を零して、白くてしなやかな手を引いた。

導かれた先は将臣の広い胸。

慌てて起き上がろうとするのを、小さな頭を胸に押し付けて制する。


「なぁ、緊張してるか?」

「あ、当たり前でしょう!」

「ははっ」


期待通りの答えに、将臣は短く笑う。

腰にまわした手に力をこめて額に口付けると、「俺も」と悪戯っ子のように笑った。


「将臣君でも、緊張するの?」

「俺をなんだと思ってるんだよ?」

「だって・・・・・・」

「好きな女を初めて抱くんだから、緊張しないほうがおかしいだろ」


照れて笑うその顔は、望美が知る将臣の笑顔だった。

触れる口付けは深さをまして、互いへの想いを引き出していく。

分かち合う熱は至福の一言でいい。

夜はゆっくりと訪れる。


地上に月の白い光が降り注ぐころ、二度と離れないように抱き合って眠った。

もう夢で会う必要は無いのだ。

あんな悲しい想いはもうしなくていい。

腕を伸ばせばすぐに抱きしめられる。



――目覚めても君がいる。それが、幸せ













☆☆☆☆☆☆☆あとがき
素敵イラストサイト 「色環」さまで444というなんとも不吉な数字を踏んだときにリクエストしてみたら
これまた海より心の広い管理人・葉月様がイラストを描いてくださったのです。
出来上がったイラストみたじゃんには目の前にワイパーが必要でした(キモい)
で、不祥ながらもそのイラストを見て書いたSSでございます。
と、いうわけで、葉月様に限りお持ち帰りOKです。嫁にもらってください。
えー、若干まさおが性急ですね。あえて割愛した部分はちゃんと裏に置きます。いつか。